去る8月7日(金)、上智大学12号館にて今年度初となる第7回Sapientia会研究会が開催されました。当日は厳しい日差しの照りつける中でしたが、史学専攻の院生のほか、新4年生となり卒業論文の執筆を控える学部生も交えた報告会となりました。今回は、修士論文と卒業論文を控える学生にそれぞれ専門のお話をしていただきました。学部生の方々にとってはひとつの卒論のビジョンとして、発表者の方には今後にむけた一つのステップとなったのではないかと思います。
以下に報告の要旨と、質疑応答の様子を紹介します。ご参加くださった方には内容の再確認として、また今後の
Sapientia会研究会に興味のある方には、会の様子を知る一助としていただければ幸いです。
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<第1報告>
イタリアのロマネスク美術と古代遺物
文学研究科史学専攻博士前期課程 桑原真由美
今回の研究会では『イタリアのロマネスク美術と古代遺物』というタイトルで、修士論文のテーマ設定に至ったきっかけと今後の展望について発表を行った。
報告者が修士論文で取り扱うのは、イタリア中北部の都市モデナの大聖堂であり、12世紀初頭に建設されたこの聖堂の外壁のレリーフ群には、古代石棺の図像が典拠となっているものが多い。これら古代由来の図像については、主にキリスト教の論理を軸とした解釈が中心であり、世俗の人々がどのように受容していたかといった点が語られてこなかった。そのような既存の解釈への批判の中で、イタリアの美術史家であるサルヴァトーレ・セッティスは、モデナ大聖堂の《下向きの松明を持った童子》の図像(写真参照)が、古代後期~中世にいたるまで繰り返し葬礼的な用途において利用されてきたこと、専門的知識がなくてもその機能や用途から葬礼的な意味は理解されたであろう、ということを指摘している。これをふまえ、報告者は、モデナ大聖堂の古代由来の図像群について、最新の発掘資料などにあたりながら、古代から中世に至るまでの図像の展開を整理し、世俗の人の観点から解釈を見直していくこととした。また、注文主(聖堂参事会)と受容者(市民、近隣農村住民)の相互関係についての概説を紹介し、今後さらに実態を掘り下げていく予定であることが述べられた。
質疑応答では、パノフスキーの図像解釈に対するセッティスの批判について、および、都市のアイデンティティーとしての古代遺物利用について、補足説明が求められた。また、図像解釈の方法論についての質疑においては、図像の追加や再構成などの痕跡をたどる必要があることが説明された。この点については、傍証となる動物譚、詩、伝承などの収集も今後の課題であると考えている。
下向きの松明を持った童子(発表者撮影)
<第2報告>
後漢末期~三国時代における西方異民族の働きと漢化について ※卒業論文報告
文学部史学科 宮内勇弥
報告者は現在「後漢末期~三国時代における西方異民族の働きと漢化について」という題で研究を行っている。西方異民族は前漢の武帝の遠征以来、政府の政策によって内部に移住を強いられ、官吏の汚職などによる搾取されていく弱い存在であった。度々反乱を起こすものの、その度に討伐され、必要によっては更なる移住を強いられることとなっていたのである。
このような立場にあった西方移民族であったが、その地位が大きく変動していく時代が後漢末期~三国時代であると報告者は考えている。184年の黄巾の乱以降、中国国内は大きく混乱し、実力によって力を得た諸侯が活躍する時代となった。このような時代の中で異民族が戦力として大きな役割を果たしていくことになる。帝を拉致し、一時政治を思うがままに操った董卓の配下には数多くの異民族がおり、更に異民族と漢民族のクォーターである馬超は蜀の劉備に仕え、後に五虎大将と言われるまでの功臣となった。このようにこの時代の異民族は大きな働きをなし、立場も大きく変わり、漢民族と同等の地位にまで復したと考えている。
質疑応答においては、史料の少なさ故の心配や、漢化とはいったいどのようなものであうかといった指摘を受けた。現状では史料の制約上、手詰まりとなる可能性もあるため、烏桓や鮮卑などの北方異民族、南方の呉と接触していた山越まで手を伸ばしてみようと考えている。また、漢化についても未だ自分の中の定義がしっかりとしていないため、王朝側の対応から漢化を定義付けたいと考えている。
発表者近影
(※掲載の写真は、すべて報告者の了承を得たものです)
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上智大学Sapientia会は、同大学院に在籍する学生の相互交流を目的とした横断的研究会です(運営は現在史学専攻による)。研究会誌『紀尾井論叢』の
発刊も行っております(全3号既刊)。現在、報告会(次回は2015年冬を予定)の発表者および会誌『紀尾井論叢』の投稿者を随時募集しております。専攻に関わらず、意欲ある皆様の研究発表の場をご用意しておりますので、研究会および雑誌に関心がおありの方は、sapientiasophiaXgmail.com(Xを@に変換)までご気軽にお問合せください。