2017年9月30日土曜日

第11回Sapientia会研究会

2017730日(日)、第11Sapientia会研究会が行なわれ、3名の方に発表をして頂きました。今回は史学専攻の学生のほか、学部生の方にもご報告いただきました。様々な世代からの積極的な参加をいただき、大変盛況な研究会となりました。

以下に報告タイトル及び要旨と、質疑応答の様子を紹介します。ご参加くださった方には内容の再確認として、また今後の Sapientia会研究会に興味のある方には、会の様子を知る一助としていただければ幸いです。


《第1報告》
汪精衛政権下の清郷区における民衆工作と宣伝戦
文学部史学科 光多隆之介

 本報告においては、汪精衛政権下の主要政策の1つである清郷工作が行われた清郷区について、そこで汪精衛政権がどのような宣伝行ったのか、また、敵であり当地に抗日根拠地を作って抵抗を試みていた中国共産党の軍隊である新四軍との抗争において互いにどのような論理で宣伝戦を展開していったのかに着目した卒業論文の中間報告である。
 汪精衛政権の宣伝工作においてこれまで重要視されてきた新聞という媒体に対して、当時の識字率の低さ、「漢奸紙」に対する中国人の冷たいまなざしなどでその効果は低いものであったと報告者は考えており、「政治工作団」・「清郷宣伝隊」などの組織が宣伝において活躍したことに着目した。その宣伝方法としての演劇、街宣車、映画、教育などがあると考えている。そこでは、孫文からの三民主義の積極的な主張により自政権の正統性を喧伝するだけでなく、演劇などを通して共産党の残虐性を訴えかけた。
 また、共産党新四軍側も汪精衛政権は阿片窟を経営しており、民衆を痛めつけて鮮卑としているなどという宣伝を施した。
 これまで宣伝の一種として考えられていなかったものにも着目した。それは医薬品である。伝染病対策は兵士を守るために必要であるが、両者ともに医療政策はそこにとどまらず、汪精衛政権は見せるための歯科治療を行い、衛生的な日本や汪精衛政権を積極的にアピールした。
 以上のことから、宣伝には自身のイデオロギーの正統性を喧伝するだけでなく、物資供与などの何かしらの利益を与えるものも存在していたことを検討することができるのではないかと中間報告時点で明らかにした。
 質疑応答においては、「阿片窟」が事実かどうかという議論がなされ、事実である可能性もあるが、相手側を攻撃する際の一種の常套句になっていたのではないかという指摘や、議論がふわふわしてしまうため、宣伝の定義付けが必要なのではいかとする意見を頂いた。これらの意見を卒業論文を書く際に有益に生かしたい。


《第2報告》 
テレサ・デ・ヘススの『書簡集』
文学研究科史学専攻 生田初音

 報告者は今回の研究会を修士論文中間報告と位置づけ、ローマ・カトリック教会の聖人かつ教会博士であり、16世紀スペインの「女性神秘主義者」と呼ばれるテレサ・デ・ヘスス(151582)が書いた手紙を編纂した『書簡集』と、その歴史的意義について報告した。
 報告の前半では、テレサの経歴や彼女に関する先行研究を踏まえたうえで、その思想や著作は女性であるがゆえに「神秘体験」や、男性の上長に対して「服従と謙遜のレトリック」を根拠に主張・著述しなければならず、また彼女の死後すぐに伝記で作り上げられた「聖女」像が、後のテレサの「聖人」的イメージ形成につながっていったことを前提に、これらの事情を差し引いてテレサのテクストを読む必要性を指摘した。一方、彼女が書いた手紙の多くは私的なもので、そこでは「神秘体験」や「レトリック」を用いられていないために、手紙から「真実なるテレサ」像を発見できるのではないかと提起した。
 報告の後半では西洋世界における『書簡』を定義しつつ、テレサの手紙に関して概要をまとめた。テレサの手紙の存在は彼女の死後忘れ去られていたが、彼女が聖人に列聖されて初めて収集作業が始められ、17世紀半ばに『書簡集』として編纂・出版された。しかし20世紀以降、断片的に引用されることはあったものの、テレサの手紙の体系・包括的な研究はほとんどないのが現状である。修士論文に向けて、現存するテレサの約450通手紙を年代・宛先別に分析し、当時のスペイン帝国や宗教改革時代のヨーロッパの社会的背景が見えてくるのではないかと提起して今回の報告を締めくくった。
 質疑応答では、テレサが実際書いた手紙数が約15000通であったのに対し、現存する450通が果たして均一な割合で残っているのかという指摘を数多く寄せられた。むしろ、異端審問の脅威から数多くの手紙が焼却処分された事実を踏まえ、「現存している手紙の傾向」として分析するほうが良いのではないかという指摘もいただいた。

 《第3報告》
題籖軸と日本古代の経営体
文学研究科史学専攻 渡部敦寛

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 上智大学Sapientia会では、報告会(次回は201711月~12月を予定)の発表者および会誌『紀尾井論叢』の投稿者を 随時募集しております。専攻に関わらず、意欲ある皆様の研究発表の場をご用意しておりますので、関心のある方はお気軽にsapientiasophiaXgmail.com(Xを@に変換)までご連絡ください。